すずめの戸締まり 感想
新海誠監督の作品は、いつもまず映像の美しさに心を奪われるのですが、すずめの戸締まりもまさにそういう映画でした。最初は、田舎に暮らすすずめが廃墟で封印されていた存在を解いてしまい、そのせいで災いをもたらすミミズが現れ、ダイジンとともに各地を巡りながら災害を防いでいく物語だと思っていました。序盤だけを見ると、不思議な存在や冒険の要素が強くて、きれいな映像と青春の空気を楽しむファンタジー作品のようにも感じられました。私自身も最初は、君の名は。や天気の子の流れにある、感性的で美しいアニメ映画だと思いながら観ていました。
ですが、最後まで観終わったあと、この作品は想像していたよりもずっと重く、真剣な思いが込められた映画だったと感じました。特に終盤、東日本大震災を連想させる描写と、日記に書かれた「3月11日」という言葉を見た瞬間、この映画はただの地震災害アニメではないのだと強く伝わってきました。そこから作品の見え方が大きく変わりました。それまでは、すずめの旅や扉を閉めていく展開の面白さを追っていたのですが、後半ではこの作品が傷ついた記憶や、残された人たちの感情とどう向き合っているのかを考えさせられました。ファンタジーの形を借りながら、現実に起きた悲しみを忘れないための物語になっているところがとても印象的でした。
個人的に一番良かったのは、やはり作画と音楽です。これは本当に文句のつけようがありませんでした。背景美術は圧倒的で、廃墟でさえどこか美しく見えるほどでしたし、扉が開く場面や災いが迫る演出も画面だけで強い緊張感が伝わってきました。そこに音楽が重なることで、静かな場面の余韻も、緊迫した場面の高まりもより深く心に残りました。新海作品らしい繊細な感性はそのままに、今回は恋愛だけでなく、喪失や追悼の感情まで描こうとしていたように思います。
物語の構成も全体的には楽しめました。日本各地を巡りながら扉を閉めていくという流れは繰り返しではあるのですが、場所ごとに空気が違い、そこで出会う人たちにも温かさがあって、単調には感じませんでした。むしろロードムービーのような魅力がありました。すずめが旅の途中でさまざまな人に助けられる姿を見ていると、災害や傷を扱う物語であっても、最後に人を支えるのは人とのつながりなのだと思わされました。
この映画を観て改めて感じたのは、自然災害の前では人間は本当に無力だということです。普段何気なく過ごしている日常が、実はとても不安定なものの上に成り立っていることを思い知らされました。同時に、地震によって被害を受けた地域や人々へのやるせなさも強く感じました。観る前よりも観た後のほうが、この作品について長く考えてしまうのは、単に面白い作品だからではなく、現実の記憶を静かに観客へ手渡してくる映画だからだと思います。
もちろん、すべてが完璧だったわけではありません。展開が少し急に感じるところもありましたし、設定の一部は感情の勢いで押し切っているようにも見えました。だからこそ、圧倒的な傑作だとまでは言わないのですが、それでも映像と音楽の完成度は非常に高く、作品に込められたメッセージも思っていた以上に深いものでした。
私ならこの作品には10点満点で7点をつけたいです。人生最高の一本とまではいきませんが、十分に観る価値があり、観終わったあとにもいろいろなことを考えさせてくれる映画でした。美しい映像が好きな方はもちろん、災害や喪失、そしてその先にある回復について描いた物語を観たい方にもおすすめしたい作品です。
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